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空虚惑星⊿X

何か有意義なことをしようと改めて考えてみたら、「アレ?何もやることないぞ!」と気が付いた星の人が綴る日記

荒島岳③

3月28日。荒島岳アタックの日。

4時30分にアラームで目が覚めたが、外は雨。
テント内に雨音がけたたましく鳴り響く。
聞こえる雨音は激しいが、実際はそうでもないことが多い。
テントの幕は音を響かせる。うるさいとは思わない。風流だと思う。

外が暗いし、雨だし。
ボクは二度寝することにした。
それほど行程が切迫しているわけではないのだ。

5時30分。
さすがに外は明るい。ボクも起きる気になった。
雨も少し退いているようだった。
テント内でくすぶるような降り方はしていない。

22時から寝て、5時30分まで。
何回か目が覚めたが、しっかり7時間半寝ているのだからスッキリしている。

さぁ、お楽しみの朝食を作ろう。

今回から使い始めたカップで長ネギ入りチキンラーメンを作る。
作るというようなものではないが、大容量のカップとチキンラーメンの使いやすさを見ておきたかったし、生野菜を持ってくるのも初めてなので、それだけで少しテンションが上がっている。

登山の準備をしながら麺をふやかしたので少し時間が経ってしまったが、チキンラーメンの温かさは充分納得のいくものだった。これが金属製だと冷え方が半端ない。すぐにぬるくなってしまう。ボクはそれがいやだったので、2層構造のプラスチックを温かいモノを入れる容器に使っている。
前のモノは飲み物しか入れられないような小容量だったが、今回はラーメンも入る。このカップひとつでだいぶ食料の選択肢が増えそうだった。

生野菜は長ネギしか持ってきていないが、それだけでも充分嬉しいものだとわかった。
乾燥野菜はやはり味が微妙だ。摂取している感があり、食事に潤いを与えるようなものではなさそうだった。だから今回は試しに生野菜を持ってきてみたのだ。

食事に楽しみを増したいボクは、調味料セットと、まな板と、カッティングナイフを持ってきていた。
今までの山飯にはない装備だが、あれば期待感がアップする。
いい感じだ。

食事を終え、軽装に身を固める。
やはり昨日考えた通り、テントをそのままに、余計なものは置いておく作戦をとることにする。

カッパを上下着込み、雨用スパッツを履く。
ザックにはお湯を沸かすだけの小さい鍋とアルコールバーナーセット、冬用ダウン、水1.5L、昼食用ラーメンとソーセージとカルパスとおかしを少々、Wストック、軽量イス、チェーンスパイク、トイレセット、軽量ブランケット、救急セットが入っている。

背負う。
意外に重い。10kgくらいかと換算する。
ここでも重さは気になる。
しかし、10kgは行動の支障にはならないから大丈夫。
問題にしているのは、ボクの予想と実際が違うということだ。
軽く収めているはずなのに、意外と重い。
そういうものなのだ、と思うのは容易いが、しっかり理解しておかないと無駄にエネルギーを使うことに繋がりかねない。
今後の活動のためにも、重さは特に気を配っておく必要があると改めて思っていた。

雨降りの中、7:45に勝原遊園をあとにした。
登山口までの道すがら、山々を仰ぎ見る。荒島岳があると思われる方向をしっかりと見る。
昨日、電車のなかで、「あの山じゃなければいいなぁ」と呟いた山。
今日登るのはあそこなのだろうか?
だとすれば、用意した滑り止めがチェーンスパイクというのはいかがなものだろう。
…うん、完全に足りてねぇ。

あの山でなければいいなぁ
写真は「あの山じゃなければいいなぁ」の山

あの山でなければ
写真は「(のちに)やっぱりこの山だったか!」と少し後悔した山。
実際の頂上はこの奥にあり、頂上からは勝原遊園は見えない。


駅で水を汲み、初めての道を通りながら登山口に到着したのは8:15。
昨日のうちにテント内で書いた登山届を提出するためにポストを探す。

公衆電話ボックスがあり、そこには電話ボックスの代わりにポストがあった。
手書きの地図や、注意事項なども置いてある。ありがたく手書きの地図をもらう。
とはいえ、ボクも地図は持っている。等高線付きの地図だ。
山において地図は非常に頼りになる相棒みたいなものだ。
登山中、何度も地図と語り、地図に質問する。
情報の質が違う地図なら、いくつ持っても良いと思う。

登山届のポストの隣に、これまた手書きで書かれた紙があった。
『3月27日に登山をして、12本爪のアイゼンを落としてしまいました』
もし見つけたら回収して連絡してほしいという内容だった。

27日と言えば昨日である。
ボクが回収できる可能性が高い。
と、すれば… これはミッションか!

楽しくなってきた。
アイゼン、ぜひ見つけて返してあげたい。

<今日のミッション>
1.荒島岳登頂
2.アイゼンの回収


8:35に登り始める。
もともとはスキー場であったのだろう、リフトの柱とワイヤーがある。その柱伝いにアスファルトの坂を登っていく。
しばらくするとアスファルトは消え、ごろごろとした岩場が続く。結構歩きにくい。細々とした岩はボクの足元を不安定にさせるが、そんなことで転ぶボクではない。
この頃には、雨はすっかり顔を隠していた。濃い曇天が残っているが、このまま降らないでくれれば、軽快に登れる。山の天気は変わりやすい。いい方に変わってくれと願った。

長い岩場が終わると、そこは雪の大地だった。
雪道
端々に草木が顔を覗かせているものの、ほとんどが雪。
登山道はどこだかわからず、前日までの登山者が付けたものだろう足跡を辿って登る。
しかし、幾筋もの足跡があるので、どれを信用したものかわからない。
登り易く、かつ、信用のおけそうな足跡を選んで登る。
ときどき立ち止まり、登る先を確認する。そして振り返り、登ってきた軌跡が不自然な場所でないことも確認する。
雪の大地は判りづらい。明確な道がないから。
それでも進まなければならないから、確認は細かくおこなっていく。


荒島岳、標高1523m。
登りの参考時間は4時間。足が速ければ3時間も可能だという。
途中、目標となるものは【トトロの木】と呼ばれるブナの老木。そして【シャクナゲ平】と呼ばれる高台の丘。


もともとゲレンデであったのだろう雪の大地を登り、9:25に旧登山口へ到達した。
ここからはブナの木の森が続く。間隔は広いが大きなブナの木がたくさん並んでいる。
森に入っても雪は深い。
そして登りも急になっていく。

滑って落ちないよう、キックを繰り返して足場を確保しながら進む。
速ければ3時間で登頂できるのだからそれを目指しているのだが、進みが遅い。
雪のせいだ。
滑落防止のために足場確保する時間が増えていた。また、雪道ゆえ、たくさんの踏み跡から正確な道を探すのも何気に時間を使っているような気がする。

足元が悪いゆえ、道を間違えると復帰が面倒だ。少しも間違えたくはなかった。
そんな慎重さが足運びの速度を落としていたのだろうと思う。

トトロの木
写真はトトロの木。
大きくて立派な老木で、この山のシンボル的存在。


ブナの木林が続いていた。
ブナの森
ブナの木がたくさんあるが飽きることはない。
そりゃ、毎日一週間も見てれば飽きるのだろうが、今日のところは飽きずに済みそうだった。
若い木、青年木、老木。足元から曲がるものがあれば、コブが立派に主張しているものもある。
ボクは植物に詳しい訳ではないから、「これはマツ、これはスギ、これはブナ」なんて断言できるような知識はないが、ここは丹沢とは違うな、とはさすがにわかる。

みんなは山登りとひとことでいう。
なぜ、山に登るのかという人までいる。

『そこに山があるからだ』なんて真顔で言えれば恰好もつくが、ボクはそうでもない。
山が好きなのか、と言われればそうでもあるし、そうでもない。
自然が好きかと問われれば、そりゃそうだろうけど、機械も好きだ。

じゃあなぜ登るのか。
多分、感動したいのだと思う。

初めて見る風景。
初めての体験。
変わりゆく天候と地形、そして植物の生態系。
動物との遭遇。
疲労と挫折、充実感と達成感。
登った者しか見ることのできない景色。
そして危険。

いたるところに感動は落ちている。
山は疲れるんだけど、感動の数と量がすごい。
自己責任で登れと言われるほどにハードだからいい。
人と会うことが少ないから、会えたときの嬉しさも大きい。

冒険をすること、冒険している人に会うことが好きなのかもしれない。
だから別に山でなくてもいいのだが、百名山を目指すというのは目的として判り易かった。
切っ掛けとしても掛かり易かったし、計画も立てやすかった。
ま、そんなこんなで今は山を登っている。


トトロの木を越えたのに、全然しゃくなげ平が見えてこない。
自分の中で2時間を考えていたのにもうすぐ3時間になりそうだ。
絶壁のような登りをキックを繰り返して登る。

チェーンスパイクを履くべきだろうかと考える。
いや、まだ大丈夫だとも思う。
行けるところまでお助けグッズには頼りたくない。すぐに使ってしまっては経験値が得られない。
ボクは登山靴のまま、キックで登っていく。

シャクナゲ平に到着したのは登り始めて3時間後の11:20だった。
本当なら休憩したかったが、この遅さでは後々大勢に響きそうだったので、そのまま頂上を目指すことにした。

15時を越えたらイキナリ山は寒くなる。
そのとき遭難していたら状況が切迫してしまう。

15時には下山タイムがわかるような場所にいたかった。
頂上まで行ってないのだから帰りの状況も想像できない。ボクは先を急いだ。

シャクナゲ平からは稜線を歩く旅。
切り立った稜線を絶景が挟み込む。

絶景ということは遮蔽物がないということでもあり、滑落時の危険度は増してくる。
滑落したが最後、どこまでも滑り落ちていくということもありうる。
加速度がついた体は、とうとう遮蔽物にぶつかり、大怪我や死亡なんてこともあるかもしれない。

山の絶景は嬉しい反面、危険でもある。
自然に足元すくわれないように、慎重に進まなければいけない。

稜線を進む。
滑落注意
途中、崖のような登りが行く手を遮るが、これを登らなければ登頂できない。
しかし不安もよぎる。
登ることはできるが、果たして無事に下れるだろうか?
そればかりが脳裏に浮かぶ。

登りはいい。帰りはどうだろうか。登らずに引き返した方が良くないか?

「いや、まだ行ける」

まだ、大丈夫だ。
過信や自惚れかもしれない。
でもボクの能力を越えた壁ではないと思った。下りも、なんとか無事に越えられるだろうという判断でもあった。

3点支持で壁を登る。
登りきったところの木には鎖が繋いであった。
そうか、ここは普段なら鎖場なのか。
鎖場とは急斜面、もしくは壁に設けられた、よじ登るための鎖が垂らしてある場所のこと。ここはそういう場所なのだ。名前を【もちが壁】というらしい。

登りきり、少し歩いたところに人工物が落ちていた。
アイゼンだ。
12本爪で、まだまだ新しい感じのするアイゼンだった。
確かに、失くしたで済ませるには高価そうだ。
登山口で知った探し物はこれに違いないだろうと思われた。

稜線を歩く。
高度が上がる
天気は回復に向かっていたが、晴天とはいかなそうだった。
曇天がところどころ切れる程度の天候。
それでも雨や雪よりはいい。
ホワイトアウトなんか洒落にならない。
切り立った稜線
気温は10度。高度の割に暖かいと言っていい。
風はなかった。これが一番嬉しい。寒さも厳しくないし、バランスも崩さない。
今回の登山がうまくいけば、まず最初の理由として風がなかったと言うだろう。

頂上に向かうほど切り立っていく稜線。
歩ける場所は少なくなっていく。
足元が土くれならこれほど緊張はしないだろう。雪だから怖い。滑って落ちればどうなるか。

シャクナゲ平から1時間して、休憩をとった。
まだ登るのか
持ち歩いていたアイゼンをしまうため、そしてチェーンスパイクを履くために休憩をした。

多分、このまま登山靴だけで登れるだろう。
しかし、チェーンスパイクの性能も見ておきたかったのだ。

休憩を明け、頂上を目指す。

足元の滑りは少ない。
確かに、履いただけの制動操作はできそうだ。

しかし、足りない。

ここまでの雪、ここまでの量。
まるで歯が立ってない感は否めない。
歯が足りない。数ではなく、長さが足りない。
1センチではなく、3~5センチの歯が欲しいと感じた。

そう、普通のアイゼンが欲しい。

結局、急斜面ではキックを繰り返す他なく、サクサク進むというわけにはいかなかった。
チェーンスパイクは、氷の上が最強かもしれない。しかもガチガチの氷だ。
長い歯が刺さらないような場所では効果がテキメンだろうが、雪となると刺さる深さが足りなくて心許ない。今回のチョイスは失敗だった。持ってくるなら軽アイゼンが良いだろう。いや、ここまで雪があるなら12本歯の本格的なアイゼンを用意しても良いかもしれない。
初めて12本歯のアイゼンが欲しくなった。

いつまで登るのか?
いつまで続くのか?

そんなことを考え始めたとき、小屋のようなものが見え始めた。
小屋? いや、お社だ。
ということは頂上か?

お社が近づく。
ここから見える丘以外には高いものが見えなくなる。
とうとう登りが終わったのだ。

ボクは荒島岳の頂上に辿りついたのだ。
頂上の碑
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