51座/百名山【十勝岳】

どうせ晴れていないだろう。
そう思って目を覚ましたのは4時だった。
外は明るみをはらんできている時分。

でも今日は長く歩くことになるだろう。
藪漕ぎもあるかも。。。ああ、トラウマ。
サッサと起きておかないと…

と、外を見ると… 晴れている!

即座に表に飛び出して、今にも出そうな太陽光に映し出せれる山脈の影。

170909_十勝岳へ01
この双子池野営指定地は、多分、晴れてさえいれば美しい景観を見ることができる場所だ。
藪漕ぎの果てに吐き出された場所かもしれん。
ずぶ濡れで、寒さに震え、溜まり水をすすり、豪雨にさらされたとしても(やっぱトラウマだわ)、ここは多分、美しい。
その真の姿がここに現れる!

素晴らしい! 紅葉と日の出と山影のコラボ。
やべぇ、いつまでも見てられるぜ…
…と、カメラが急にダンマリする。あれ、電池切れだ…

マジかよー! 昨日充電したじゃん! なにこれ!!

叫ぶボクだがカメラは容赦なくシャットダウン。
これ以降、何をしても1秒で電池切れとなる。
しゃーなし。こっからはスマホでがんばろう。

とにかく、日が昇る間に食事を摂る。
今日の夕飯のことも考えて、溜まり水も少しだけ補給しておく。
出る時間は6時としていたが、少しだけ遅れて…

急にガスってきた。
即座にガスった。
つーか、もう、山脈見えねぇ…

たった15分で視界が100m ほどになってしまう。
まだ冷たい風と、少々の雨に晒される。
どうやら、山の祝福は終わりのようだ。
『さぁ、もういいだろ、さっさと旅立ちなさい』
とでも言うように、あからさまな豹変ぶりに退去する。
「本当、今度は晴れてるときに来たいわな。(藪漕ぎさえなければな!)」
ボクは晴れた日のこの地の素晴らしさを感じたかったが、出発を余儀なくされた。

さて、
ここから一気に500m 以上標高を登る。
コースタイムだと2時間だが、少しでも時間を稼げるとうれしい。
本日最初の難所は、突如立ちふさがるわけだ。

雨と霧がすごい。
いや、雨はさほどではない。霧がすごい。
視界は100mを下回ったのではないだろうか? 本当にあまり見えない。
登山道をしっかり確保するのに注意する。
藪漕ぎは今のところなし。良い登りが続いている。

1時間30分後。最初のピークに辿りつく…が、

『びゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

風がマジ、やべー。

ガスで視界が悪い上、稜線向こうからの吹上の風が半端ない勢いでボクを打つ。
気温は確か7℃だったが、風のせいでかなり寒く感じる。
レインウェアの上下を着ているが、まったく暑くない。蒸れも汗も感じない。
やや、肌寒いくらいで済んでいるが、ハッキリ言って、風はやばい。

稜線の細いヨコバイなどはバランスを崩さないように気を付けた。
不意な強風にさらされたらバランスを崩して滑落しそうだ。
それほどに風が強かった。
逆に、山影に隠れることができれば全然暖かかった。
本当ならこの温度なんだよな…と、冷静になりながら先に進む。

そういえば、今日は藪漕ぎがない。全くない。
良い道だ。一般的な登山道だ。
昨日までの道程とくらべ、明らかに違うこの道は、人が通る道だった。
ここまでの登山はされるのか?
大雪山系から十勝山系の山脈に移る際の間の空間(昨日ボクが通った道)だけが人気ないのか?
昨日苦しめられた藪漕ぎゾーンとは全く違う、トレッキングの世界がそこにはあった。

いいぞ、ロケーションこそ最悪だが、道が良ければ差し引きゼロという計算ができそうだった。

それ以降、ガスと風には悩まされたが、進みは早かったと思う。
時折ガスが晴れることもあったが、十数分と持たず、だいたいはガスと風の一日になる。

美瑛山を越えると、ようやく十勝岳に足が掛かる。美瑛の登りはじめまでが10時半だ。
躊躇なく、美瑛の登りに差し掛かる。
ガスが強い。視界は50mか?
風もさらに強くなった。ときより吹く強風でこけそうになる。明らかに朝より速い風だ。

「!!…寒い、だと?」

とうとう登りで寒さを感じてきた。
登りで寒い。これは由々しき事態である。
防寒具を着るか、このままいくか。
防寒着を着て暑くなるリスクが嫌で、そのまま進むことにする。が、寒い。

美瑛頂上。11時半。
寒い。
ここから十勝岳へと向かえるはずだ。コースタイムは2時間半だったか。
…だが、見つからない。
登山道がみつからないのだ。

方角的に進んでみると、滑落コースな急斜面。
登山道と思わしき道を進むと… 美瑛-十勝分岐まで戻ってしまう。
おかしい。くそ寒いのにグズグズしている暇はない。
ボクの脳裏に(引き返すのか?撤退か?)というイメージも浮かんできた。
それほどに事態は急いていたのだ。
とにかく風が冷たく、視界がない。
道をロストしたら最後、どういう迷い方をするかわからない。滑落する危険もある。

そんなときの強い味方、GPS!!!!!!

登山地図をリンクさせたスマホのGPSを起動させる。
これで見つからなければ、美瑛麓からの撤退も視野に入る状況だ。

「おかしい。この道がここで終わってはいけない。南に行ける、急斜面ではない登山道があるはずなんだ…」

滑落しない安全確保レベルで南端まで進む。
ない視界の中、右手に赤い矢印を発見。みつけた!!
隠れ道かよ。。。

稜線の細い崖渡りがあったものの、それ以降は比較的チョロイ道が続いた。
玉砂利の上を歩く。地表が黒い玉砂利だ。ここは火山なのか?
富士山を彷彿とさせる登山道を進む。

美瑛の登りの凄まじさに比べ、風がないだけで本当に緩く感じる。
「チョロイな、ここ」 そう思ってしまう。
ほどなく、十勝岳麓に到着。そのまま登る。
マジで富士山の砂走みたいなところで、思ったより登りが面倒。
でも、風がないだけマシ。命の危険がないというのは意外に心に余裕を持たせるものだ。

というのもつかの間。
ついうっかり道を間違えてしまい、いつのまにかクラックを登っていた。

リボンが見えたのだ。登山道のリボンが。
だからクラックを登ったのだが、いくつか岩を登るうち…

「あれ、これ、難易度高くね? いままでの十勝難易度がおじいちゃん登坂レベルだったのに、ここ、山男登山レベルになってるんですけど?」

気が付くと傾斜50度ほどの砂走。
一歩踏み込む… すると砂走により踏み止まれず下に流されそうになる。
雪の日みたいに爪先でキックしてから踏み込む… んでもダメみたいだった。
これは砂走は危ない。

左手には切り出して層になっている岩がある。
これを伝って登れば、なんとか安全圏に入れるのでは?

岩に取り付く。
しかし、触るともげる。踏み込むと踏みぬかれる岩ばかり。
ボクの体重を支えるのは心元ない。

緊急事態だった。
降りようとすれば、きっとどこかで足を滑らせて滑落しそうだ。
砂走はアリジゴクのように滑落するだろう。
固定された良い岩を見つけなければ、掴んだ岩がもげて滑落なんだろうな。

ボクはWストックを背中に納め、ハンズフリーになった。
ほぼ四つん這い… スパイダーマンスタイルで岩を登り、砂走を這った。
緊張で息が荒い。マジ、一つのミスが滑落を生む条件下だ。

このまま登るか?
登れば頂上はひとつに絞れるから必ず正解にたどり着くだろう。
しかし、滑落リスクは高まらないか? このまま難易度が上がり続けたら…
そう思い、冷や汗をかくが、思いついたこともあった。

本ルートはどこだろう?
できるだけ横這いに進めば本ルートに合流できるのでは?

頂上へ向かう線と、本ルートに復帰の線で登坂開始。
少し進んでは緊張した足と体をほぐし、あたりを見渡して最良のルートを探す。
安全、安全。
とにかく一番安全なルートで頂上か本ルートに復帰するのだ。

しばらく横這いしたころ、砂走の角度が緩んだ。
見渡すと… 表示が見える! どうやら本ルートがそこにあるらしい。
角度が緩んだ砂走なら、転んでも滑り台のように滑るだけだろう。
本ルートに復帰すべく、駆け出した。

そして復帰。
今回の旅で一番の命拾いだった。

息が荒い。
安堵感が半端ない。
危なかった…。

息を整えて、靴のなかの砂利を掃って、再出発。

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視界は相変わらず悪い。20m かな? 本当に見えない。
そんななか、とにかくもう本ルートから外れたくないボクは、注意しながら進む、、、が、これも難しい。
20m の視界ではすぐにどこにいったらいいかわからなくなるのだ。
砂走なので足跡がない。遠くが見えないので全体的な流れがわからない。
しかし、表示は短い間隔でそこにあり、ギリギリ、前の表示が消えて見えなくなる前に次の表示が見えることに気が付いた。でもギリギリだ。

そんな感じで進んでは道を修正する作業を繰り返す。
ハッキリ言って眺望もないし、風も強いし、遭難ポイントではあるのだが、もうここまできたら十勝岳に登りたい。もう、登ったっていう証拠が撮れればいい感じ(笑)。

ふと、一気に晴れだした。
日光に見放されていたから、暖かい日差しなんてこの世にあると思ってなかった。
不意にガスが晴れる…

「あ、頂上だ…」

そこに頂上があった。
晴れてる内に…写真を撮る。
そして登る!

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登頂。
疲れた。
さくさくと補給を摂って下る準備。

予定では上ホロ野営指定地というところで今夜は過ごすつもりだった。
が、これ以上稜線上にいて楽しいか?
稜線上はこれからも強い風とガスに苛まれると思われる。

静かで綺麗な夜を期待しての稜線泊だが、どうやら期待できないと思う。
逆に、苦労ばかりするだろう。
ならば… 降りよう。

最短ルートとして準備していたエスケープルートを進むことにする。

途中、硫黄臭がキツくてガス死するんじゃないかと思われるところもあったが、なんとかルートも確保して進めた。

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あるとき、ふと、晴れた。
振り向くとガスの層がある。
横を向くと… ハッキリとガスと清浄な空間の層ができていることに気が付いた。
1500m 地点から上がガス。下が清浄。
これはダメだ。これは稜線上はしばらくガスだ。そう思って、降りてきたことは正解だったと確信した。

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十勝岳緊急避難小屋には野営指定地のマークが出ていたハズだが、営幕できそうなところはなかった。
…ので、今夜は小屋にお邪魔することにした。

誰が入ってくるかわからない小屋って、案外怖いのだが、今夜は誰もこなかった。

最後まで残ってしまったビールとスコッチを平らげ、ラジオを聴きながら、世は更けていく。
1300m ほどのこの地点でも、今夜はやっぱり雨だった。

170909_十勝マップ





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